こんにちは、シルバーウィークいかがお過ごしでしょうか。とても過ごしやすい季節になってまいりました。
さて、今回は水準測量の往復差(較差)の制限値を考察してみます。誤差伝搬の公式や標準偏差など少し難しいお話が多くなりますので、苦手な方はスルーでどうぞ。測量士受ける人は、少しは参考になるかもしれません。
また、今回の記事は、書籍・地理院より言及がない内容のため、100%正しいという保証はありません。参考程度にご利用ください。
1. 水準測量の往復差(較差)
水準測量の往復差(較差)の制限値は、以下のように定められています。
1級水準測量 | 2級水準測量 | 3級水準測量 | 4級水準測量 |
2.5mm√S | 5mm√S | 10mm√S | 20mm√S |
※ Sは観測距離(片道 km単位)とする
R2. 作業規定の準則 第2編 第65条第1項より
これらの値は、第70条の平均計算の許容範囲、つまり単位重量当たりの観測の標準偏差と対応しています。
1級水準測量 | 2級水準測量 | 3級水準測量 | 4級水準測量 | 簡易水準測量 |
2mm | 5mm | 10mm | 20mm | 40mm |
R2. 作業規定の準則 第2編 第70条第3項より
観測距離が1kmのとき、往復差はほぼこれらの標準偏差と同じ値になります。よって、往復差(較差)が定められた標準偏差以内に入っていれば、その観測値を採用することができることとなります。
2. 制限値の考察
さて、上記のように準則では、制限値を定めていますが、この制限値は妥当なものなのでしょうか。どういう基準で決められているのでしょうか。
さらに言い換えれば、人が生じさせる誤差を取り除けば、確実にその許容値内に入るものなのでしょうか。今回は、誤差伝搬の公式を使って、考察していきたいと思います。
① 器械の精度
今回は、話を単純にするために、レベルの誤差のみを考慮します。
レベルの誤差は、測量機器性能基準で以下のように定められています。
1級自動レベル | 2級自動レベル | 3級自動レベル |
0.4″以下 | 1.0″以下 | 1.5″以下 |
これらの標準偏差は度数表示なので、各水準測量の制限距離での標準偏差を求めてみます。

1級水準(S=50m) | 2級水準(S=60m) | 3級水準(S=70m) |
0.1mm | 0.3mm | 0.5mm |
細かい計算は割愛します。おおよそ、これくらいの標準偏差の値が計算により、算出されます。
② 単位距離当たりの標準偏差と比較する
さて、これらの数値を利用し、単位距離当たり(1km)の標準偏差を求めてみましょう。
先ほど、各観測での標準偏差を求めたので、誤差伝搬の式より1km観測したときの標準偏差を求めます。求め方はこちらの記事を参照ください。
今回は、1000mで割り切れない視準距離(2級、3級水準は、それぞれ1000mを割り切れない)では最も近い距離での標準偏差を求めています。
計算の結果、求められる標準偏差は以下の通り。
1級水準(S=1000m) | 2級水準(S=1020m) | 3級水準(S=980m) |
0.44mm(≒0.5mm) | 1.23mm(≒1.2mm) | 1.87mm(≒2.0mm) |
各級の標準偏差に比べ、十分小さい値が算出されました。
例えば、1級水準測量であれば、較差の制限値が2.5mmであるのに対し、計算値で求まる標準偏差が0.5mmと1/5となっています。
2,3級水準測量の標準偏差についても、おおよそ制限値の1/5が器械誤差より求まる標準偏差となっている傾向がみれます。
ちなみに、観測値が正規分布に従う場合、標準偏差の3倍で確率分布の約99%を占めますので、正確に観測が行われていれば、往復差の制限値をほぼ100%満たします。5倍とっているというところから、観測による偶発的な誤差にも少し余裕を持たせて設定していると考えられます。
3. 参考資料
書籍にも、この手の考察を少ししているものがあります。今回、考察した方法・結果とは違いますが、参考までに。下記リンクよりどうぞ。
また、誤差伝搬の公式により、ある距離の標準偏差を求める方法は下記のページをご参照ください。