甲県では、水準測量により、県内の地盤沈下地域における地盤変動量を経年的に調査している。今年度は、図に示す路線において、公共測量における1級水準測量を、電子レベルを用いて実施し、表の観測結果を得た。次の各問に答えよ。
ただし、当該地域の基準日は 10 月1日であり、表の観測高低差は変動量補正を含む各種補正を行った後の結果である。
また、地盤沈下が起きているのは、図に示す地域であり、水準点 B、C、D は地盤沈下地域に含まれている。一方、水準点 A、E 周辺は地盤が堅固で、地盤変動は生じていないものとする。

路線番号 | 観測路線 | 観測高低差 | 観測距離 |
(1) | A→B | -3.2978 m | 2km |
(2) | B→E | +13.3573 m | 2km |
(3) | A→D | -5.3635 m | 3km |
(4) | D→E | +15.4237 m | 3km |
(5) | B→C | -2.4757 m | 2km |
(6) | C→D | +0.4145 m | 2km |
問2-D-2.
図のすべての単位水準環(水準路線によって形成された水準環で、その内部に水準路線のないもの)について、環閉合差と許容範囲を mm 単位で小数第1位まで求め、それぞれ解答欄に記せ。
ただし、S を環の観測距離(片道、km 単位)としたとき、環閉合差の許容範囲は 2 mm√ S とし、mm 単位の小数第2位以下を切り捨てるものとする。
解答・解説
当該路線の単位水準環(水準路線によって形成された水準環で、その内部に水準路線のないもの)は、以下のⅠ、Ⅱである。

環Ⅰ、環Ⅱそれぞれで閉合差、許容範囲を求める。
① 環Ⅰ(A⇒B⇒C⇒D⇒A)について
閉合差は、(1)+(5)+(6)ー(3)の観測高低差より求まる。よって
$$-3.2978+(-2.4757)+0.4145-(-5.3635)=0.0045$$
単位をmm単位に直して、閉合差4.5mm。続いて、許容範囲は路線長が2+2+2+3=9kmより
$$2\times{\sqrt{9}}=6.0$$
以上より、閉合差4.5mm、許容範囲6.0mm(答)
② 環Ⅱ(B⇒C⇒D⇒E⇒B)について
閉合差は、(5)+(6)+(4)ー(2)の観測高低差より求まる。よって
$$-2.4757+0.4145+15.4237-13.3573=0.0052$$
単位をmm単位に直して、閉合差5.2mm。続いて、許容範囲は路線長が2+2+3+2=9kmより
$$2\times{\sqrt{9}}=6.0$$
以上より、閉合差5.2mm、許容範囲6.0mm(答)
問2-D-3.
地盤沈下量は今回標高と前回標高の差で求まるため、平均計算により、水準点B、C、D の今年度の標高を求める必要がある。次の文章は、水準点 A、E を既知点として、水準点 B、C、D の標高を決定するための平均計算の過程を示したものである。ア 〜 ケ に入る数式、コ に入る計画行列 A(6行3列
の行列)及び サ に入る定数ベクトル L(6行1列の行列)を、それぞれ解答欄に記せ。
解答
各水準点の標高を Hi(i = A、B、…、E)、路線(j)(j = 1、2、…、6)における観測高低差を Δhj、観測高低差 Δhj の補正量を Vj とする。
ただし、既知点 A、E の標高 \(H_{A}\) 、\(H_{E}\) は、それぞれ 30.0000 m、40.0000 m とする。このとき、路線両端の水準点間の標高差は、路線の観測高低差と等しくなるはずであるが、実際には観測値には誤差が含まれるため、観測値に適切な補正量を加えなければならない。そのため、路線(1)〜(6)における観測方程式は以下のようになる。
※ 観測方程式の立式
(推定値)=(観測値)+(補正量)となる。
本問題の場合、高低差の推定値が、各水準の標高差(例えば、\(H_{B}-H_{A}\)、観測値が\(\Delta{h_{j}}\)(表1の観測高低差)、補正量が\(V_{j}\)となる。よって、各路線(j=1、2、…、6)の観測方程式を立式すると、下記のようになる。
路線(1) \(H_{B}-H_{A} = \Delta{h_{1}}+V_{1}\) ⇒ \(H_{B}- 30.0000=-3.2978+V_{1}\)
路線(2) ア \(H_{E}-H_{B} = \Delta{h_{2}}+V_{2}\) ⇒ イ \(40.000-H_{B}=13.3573+V_{2}\)
路線(3) ウ \(H_{D}-H_{A} = \Delta{h_{3}}+V_{3}\) ⇒ エ \(H_{D}-30.000=-5.3635+V_{3}\)
路線(4) \(H_{E}-H_{D} = \Delta{h_{4}}+V_{4}\) ⇒ \(40.0000-H_{D}=-15.4237+V_{4}\)
路線(5) オ \(H_{C}-H_{B} = \Delta{h_{5}}+V_{5}\) ⇒ カ \(H_{C}-H_{B} =-2.4757+V_{5}\)
路線(6) \(H_{D}-H_{C} = \Delta{h_{6}}+V_{6}\) ⇒ \(H_{D}-H_{C}=0.4145+V_{6}\)
これらの式を、補正量を求める形に変形すると、
\(V_{1}=H_{B} −( 26.7022)\)
\(V_{2}\) =キ \(-H_{B}-(-26.6427)\)
\(V_{3}\) = ク \(H_{D}-(24.6365)\)
\(V_{4}=-H_{D} −(−24.5763)\)
\(V_{5}\) = ケ \(-H_{B}+H_{C}−( -2.4757)\)
\(V_{6}=-H_{C}+H_{D}−( 0.4145)\)
となるため、計画行列 A(6行3列の行列)と未知数パラメータベクトル H 及び定数ベクトル L(6行1列の行列)を用いて、これらの式を行列(V = AH − L)の形で表すと、次のようになる。
A:コ、L=サ
$$
\begin{pmatrix}
V_{1} \\
V_{2} \\
V_{3} \\
V_{4} \\
V_{5} \\
V_{6} \\
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
1 & 0 & 0\\
-1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & -1 \\
-1 & 1 & 0 \\
0 & -1 & 1 \\
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
H_{B}\\
H_{C} \\
H_{D} \\
\end{pmatrix}
-
\begin{pmatrix}
26.7022\\
-26.6427\\
24.6365\\
-24.5763\\
-2.4757\\
0.4145\\
\end{pmatrix}
$$
※Aには、1列目に\(H_{B}\)の係数、2列目に\(H_{C}\)の係数、3列目に\(H_{D}\)の係数を記入する。
※Lには、各観測方程式の観測値が入る。
平均計算では、この観測方程式と路線長に応じた観測の重量から正規方程式を導き、水準点 B、C、D の標高の最確値を求めることとなる。
参考ページ
【測量士】令和3年(2021)2-D-2,3 観測方程式による平均計算を解いてみた
R3年度 測量士 過去問解答
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